ベトナムの外国契約者税①課税対象取引と税率、申告納税方法
2021/07/16
- 米国公認会計士
- 逆井 将也
はじめに
ベトナムには外国契約者税(以下、FCT)という、日本人にとって馴染みが薄く敬遠されがちな税金がある。税金の性質としては日本の源泉所得税と似ているが、課税対象となる取引範囲が広いことや、契約書の記載方法等注意すべき点が多い。また、契約段階でFCTが課税される取引か把握する必要があるため、個人所得税(以下、PIT)や法人税(以下、CIT)、付加価値税(以下、VAT)のようにベトナム人社員や外部委託先にすべて任せるのではなく、本社社員や駐在員等の契約締結に関わる人物が理解していなければならない。本稿ではプロジェクトオフィス等を除く一般的なFCTの課税対象となる取引と税率、申告納税方法について説明する。
1.外国契約者税の概要
(1)FCTとは
FCTとは、ベトナム国外の法人や各種団体および個人(以下、外国法人)がベトナム国内の法人や各種団体および個人(以下、ベトナム法人)にサービスを提供した際に課される税金である。通常、サービスを受けたベトナム法人が源泉徴収し、外国法人に代わって申告納税するため、日本の源泉所得税と似ている。FCTはVAT部分とCIT部分により構成されているが、輸出加工企業(EPE)はVATが免除されているため CIT部分のみ課税される。
(2) 課税対象取引と税率
FCTの税率は取引内容によって異なる。FCTが課される主な取引としては技術支援契約やロイヤリティ契約が挙げられるが、サービス提供を伴う機械設備の輸入や親子ローン契約等の取引もサービスとみなされ課税対象となる点に注意しなければならない。以下、主な課税対象となる取引内容と税率である。なお、税額計算にあたり、CIT部分は「契約金額」に対して以下税率を乗じるが、VAT部分は「契約金額とCIT税額」に対して税率を乗じる点、ご留意いただきたい。
内容 | VAT(%) | CIT(%) |
サービスの提供を伴う物品の売買、内地引渡輸出 | 免税 | 1 |
資材または機械設備の供給を伴わない建設/据付 | 5 | 2 |
資材または機械設備の供給を伴う建設/据付、輸送サービス、製造 | 3 | 2 |
サービス一般、機械設備のリース | 5 | 5 |
利息 | 免税 | 5 |
ロイヤリティ | 免税 | 10 |
商標利用のためのロイヤリティ、レストランおよびホテル、カジノの管理サービス | 5 | 10 |
証券譲渡、再保険 | 免税 | 0.1 |
金融派生商品 | 免税 | 2 |
※EPE は VAT 部分免除
機械設備を輸入する際には、据付作業やベトナム国内輸送が契約に含まれていることが多く、その場合は各サービスの金額だけでなく、機械設備自体の金額にも「サービスの提供を伴う物品の売買」としてCIT部分の税率 1%が課される。また、契約書上において、各サービスと機械設備の金額が明確に区分されていない場合、契約金額全体に対してVAT部分3%、CIT部分2%が課税されてしまうため気を付けていただきたい。一方、サービスの提供を伴わない輸入取引であればFCTの課税対象外となるので、税負担を軽減するために、輸入条件をCIFやFOBにすること、据付作業やベトナム国内輸送についてはベトナム現地法人のサプライヤーと契約することは検討の価値がある。
例①CIF 条件で据付作業もベトナム法人に依頼:FCTなし
例②CIF 条件で据付作業を日本法人に依頼:機械設備本体の金額にCIT1%、据付にVAT3%、CIT2%
例③DDU 条件で据付作業込の契約で内訳金額が明確に区分されていない:契約金額全体にVAT3%、CIT2%
なお、②の据付作業に関して、日本法人が契約範囲に基づき行うことは据付の指示やガイドのみ等で、実際の据付作業はベトナム法人で行う場合、「サービス一般」としてVAT部分5%、CIT部分5%が課税される点にも留意する必要がある。
(3) 申告納税方法
通常はサービスを受けるベトナム法人にて手続を行うため、その場合の手順を説明する。まず、ベトナム法人は通常CITやVAT等の申告納税時に使用する税コードとは別にFCT用の税コードを取得しなければならないため、初めてFCT対象となる契約を締結する際に税コードの申請を行う必要がある。FCT申告納税手続はFCT対象となる各サービス代金の支払日から10日以内に行う必要があるが、税務局に申請し認められた場合のみ月に一度の定期申告納税とすることも可能である。申告手続は税務申告ソフトウェアを通じてオンラインで行い、納税は銀行振込で行うことが一般的である。
FCT確定申告手続は契約終了後45日以内までとなるが、法令上任意となっており、管轄の地方税務局によって要求されるかは変わる。
おわりに
FCTは原則、取引のたびに申告納税が必要であり、取引ごとに異なる税率が適用されるため、どのような取引が課税対象となるかを契約締結前の段階で把握しておくことが最も大切である。そのため、外国法人から何かサービス提供を受ける場合には、FCTのことをご留意いただきたい。次回は、FCTの証憑として重要となる契約書作成時の注意点について説明する。