Reportレポート

集団労働協約に関する注意事項

2023/04/19

  • Tran Ha My

はじめに
 集団労働協約は、企業の中で最も重要な規則の1つであり、労働者が享受する福利厚生および労働者の義務について、雇用者と労働者との合意内容を記録するものである。本稿では、集団労働協約に関する基本的な事項をいくつか紹介する他、集団労働協約を作成する際の参考になるよう、署名の順序や手順、および締結する際の注意事項について説明する。

1.集団労働協約とは
 集団労働協約とは、雇用者と労働者が団体交渉を経て達した合意内容を記載したものであり、各当事者が書面で締結する。
 団体交渉とは、より良い労働条件、および安定した労使関係を構築するために、労働組合と雇用者(または使用者団体)との間で実施される交渉および合意である。団体交渉は「任意」の原則に基づいて実施されるため、法律では企業が集団労働協約に署名することは要求されておらず、当事者間の交渉のみに依存する。

2.集団労働協約の主な内容
 2019年労働法では、集団労働協約の内容は法律の規定に反してはならないが、より労働者にとって有利な内容になることを「奨励」する必要があると規定されている(※1)。奨励の対象となる主な内容は次のとおりである(※2)。
  (i)賃金、手当、昇給、賞与、食事及びその他の制度
  (ii)労働水準、労働時間、休憩時間、時間外労働、勤務交替
  (iii)再雇用時または復職時における権利の保障
  (iv)労働安全衛生の保証、就業規則の順守

3.集団労働協約を締結する際の注意点
3.1.集団労働協約締結までの流れ(※3)
 集団労働協約の締結までに、次の4つのステップを踏む必要がある。
  ステップ 1:労働者と使用者団体で、集団労働協約の草案について議論する。
  ステップ 2:集団労働協約の内容ついて、全ての労働者の意見を聴取する。
 集団労働協約草案の採決の時期、場所、方法は、労働者側が決定するが、企業の正常な事業活動の運営に影響を及ぼすものであってはならない。また草案の決議に関する投票を行う過程で、雇用者は妨害行為をしてはならない。
  ステップ 3:集団労働協約を締結する。
 集団労働協約は、交渉当事者の法的代表者によって署名される。なお、企業の労働者のうち 50%以 上が同意した場合にのみ署名できることに留意する必要がある。
  ステップ 4:集団労働協約を送付する。
 集団労働協約の署名日から10日以内に、雇用者は本社がある場所の省級人民委員会に属する労働に 関する専門機関(労働・傷病兵・社会問題省または工業区の管理委員会)に、集団労働協約を1部送付する必要がある。
  ステップ 5:集団労働協約が締結された後、雇用者は労働者に協約を公表し、内容を周知する必要がある。

3.2.集団労働協約の効力発生日
 集団労働協約の発効日は各当事者の合意により決定され、協約に発効日を記載する。各当事者が発効日について合意できなかった場合は、労働協約は締結日から効力を有することになる(※4)。
 効力発生後、各当事者は重要性を十分に認識したうえで、適切に規則を順守する必要がある。なお集団労働協約は、雇用者及び労働者全員に対して適用される(※5)。

3.3.集団労働協約の修正と補足
 各当事者が集団労働協約の内容を修正または補足することに合意した場合、各当事者は再度交渉を実施し、項目3.1.に記載のプロセスに従い、最初から協約に署名し直す必要がある(※6)。
 また法律の改正により、集団労働協約の内容が改正後の法令内容に反することになった場合、各当事者は改正後の法令内容に合致するように、集団労働協約を修正または補足しなければならない。これにより、労働協約に記載される労働者の権利は常に最新の法令に従うことになる(※7)。

3.4.集団労働協約の期限
 集団労働協約の有効期限は、1年から3年である。具体的な期限は各当事者間の合意により決定され、集団労働協約に内容を記載する必要がある。なお、各当事者による合意があれば、項目ごとに異なる有効期限を適用できる(※8)。
 集団労働協約の有効期限終了日前の90日以内に、各当事者は集団労働協約の期間延長のため、または新たな集団労働協約の締結のために交渉を行うことができる(※9)。
 各当事者が集団労働協約の期間を延長することに同意した場合、項目 3.1.のステップ2に記載のとおり、労働者の意見を聴取する必要がある。なお、法律上は、集団労働協約への再署名および専門機関への 送付は要求されていない。しかし、集団労働協約の延長期間の情報は、交渉に基づき新たに合意された内容の1つであるため、項目3.3.の内容と同様に意見聴取を行い、再署名のうえ専門機関へ送付することが 望まれる。
 集団労働協約の期限終了日においても、交渉が完了していない場合、以前の集団労働協約は、集団労働協約の期限終了日から90日を超えない期間において引き続き有効とすることができる。ただし、各当事者が別に取り決めを行っている場合はこの限りではない(※10)。

4.集団労働協約の順守
 集団労働協約は、雇用者および労働者により厳密に順守される必要がある。集団労働協約の効力発生日より後に入社した労働者についても、集団労働協約を適切に順守する義務を負う(※11)。
 集団労働協約の効力発生日より前に締結した労働契約において規定されている内容(各当事者の権利、義務及び利益など)が、集団労働協約において規定される内容より不利になっている場合、集団労働協約の内容に従う必要がある。そのため、集団労働協約に合致していない労働契約の内容は、合致するように修正しなければならない。修正までの間は、集団労働協約の内容に従う必要がある(※12)。
 また集団労働協約への違反が発見された場合、各当事者は解決を図る責任があり、解決できない場合は、いずれの当事者も法令の規定に従い、団体労働争議による解決を提案する権利を有する。

おわりに
 ベトナムの法律では、集団労働協約の作成は必ずしも要求されていない。しかし、集団労働協約は、雇用者と労働者の権利や利益を規定する重要な規則であり、利益相反を防止し、当事者間の労働紛争を解 決するための基盤として機能する。したがって、企業の状況や雇用者および労働者の要望に応じて、法律の規定に従って集団労働協約の交渉、締結、発行の手続きを行うことを推奨する。

参考文献
※1:2019年労働法第75条
※2:2019年労働法第67条
※3:2019年労働法第76条と第77条
※4:2019年労働法第78条
※5:2019年労働法第78条
※6:2019年労働法第82条1項
※7:2019年労働法第82条2項
※8:2019年労働法第78条3項
※9:2019年労働法第83条
※10:2019年労働法第83条
※11:2019年労働法第79条1項
※12:2019年労働法第79条2項

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