移転が制限・禁止されていない技術を移転する際の手続きおよび税務上の留意点について
2024/06/25
- Mai Thi Dung
はじめに
ベトナムでは、外国からベトナムへの技術移転が非常に一般的であり、特に、外国の親会社からベトナムの子会社への技術移転取引は多く存在する。国内企業と外国企業間、特に関連会社間の技術移転料の支払い取引の管理を強化するために、政府は2017年から現在に至るまで、技術移転契約の登録に関する多くの法令を発行している。本稿では、移転が制限・禁止されている技術リスト(政令76/2018/ND-CPに規定)に掲載されていない技術を移転する際の税務上の留意点を説明する。
1.技術移転取引の関連法令についての重要な変更
1.1.技術移転契約書の登録手続きについて
旧政令133/2008/ND-CPでは、契約を締結する当事者が、管轄当局に対して技術移転契約を登録する必要はなかった。しかし、2018年7月1日以降、技術移転法07/2017/QH14では、外国からベトナム、あるいはベトナムから外国へ技術移転する際には、技術移転契約の登録が必要であると規定されている。登録期間は契約締結日から90日間である。2018年7月1日以前に発生した契約については、契約を延長する際に、この法令に従って登録する必要がある。技術移転契約を登録しない場合、政令51/2019/ND-CP第25条に従い、3,000万から4,000万ベトナムドン(VND)の罰金が科される。
1.2.技術移転価格について
政令76/2018/ND-CP第4条によると、親会社と子会社の形態に基づく関係を有する当事者、関連会社などの当事者間で技術移転する場合、万が一税務局からの要請があれば、技術移転価格の監査を受ける必要がある。この監査は、技術価格が市場価格と比較して適切かどうかという観点で実施される。技術移転価格の監査を受けない場合の罰金について、2019年8月1日以前の政令64/2013/ND-CPおよび政令93/2014/ND-CPでは規定されていないが、2019年8月1日以降有効の政令51/2019/ND-CP第22条では、3,000万から4,000万VNDの罰金が科せられると規定されている。
2.技術移転契約書を作成する際の留意点
政令132/2020/ND-CP第16条によると、関連当事者間で提供されるサービスは、以下の条件をすべて満たす場合に法人税上の損金算入となる。
①提供されるサービスには商業的・財務的・経済的価値があり、納税者の生産・事業活動に直接的に貢献する。
②関連当事者からのサービスは、これらのサービスの料金を支払う独立当事者と同様の状況で提供される。
③サービス料金は独立企業間原則に基づいて支払われており、同じサービスに対して関連取引価格の計算方法や関係者間でのサービス料金の分配方法はグループ内で一律に適用されている。そして、納税者は提供されるサービスに関する契約書・請求書・証憑・計算方法・配分係数・グループ内の価格設定ポリシーを提供する必要がある。
また、法人税に関する法令に従い、損金算入とするための以下のすべての条件も満たさなければならない。
①会社の事業活動に関係がある費用である。
②完全かつ法的な証憑・インボイスがある。
③現金以外で決済している。
上記を踏まえ、2018年7月1日以降、最初の技術移転契約書または延長される技術移転契約書に対して、技術移転契約書を登録しない場合、法的な証憑を用意できていないとみなされるリスクがある。また、技術移転証明書がないと銀行側は振込を許可しないため、企業は実際に支払いを実施できず、完全な書類を用意できていないとみなされるリスクがある。なお、技術移転料の妥当性を証明できない場合、税務局から技術移転料が設定され、技術移転料が法人税上損金不算入とみなされるリスクもある。
上記のリスクを最小限に抑えるため、技術移転が実際に行われ、かつ技術移転受領者が技術移転よる利益を受け取ったことを証明する書類として、以下を用意すべきである。
①技術移転契約には、移転する技術・移転時期・移転価格計算が詳細に記載されており、技術移転法で要求される十分な情報が含まれること
②技術移転証明書
③技術移転の段階・進捗の報告書(業務内容や実施者などを含む)
④技術移転料の計算表およびインボイス、請求書
⑤技術移転料が妥当かつグループ内の価格方針が一致適用されることを証明する書類
⑥付加価値税(VAT)込みで2,000万VND以上の支払いは、現金以外で決済していることを証明する書類・証憑
また、外国からベトナムに技術を移転する際には、外国契約者税(FCT)を申告・納税する必要がある。FCTの税率は法人税10%であり、付加価値税(VAT)は課税対象外となる。
ちなみに、税務局の担当官は、関連者からの売上にはロイヤリティフィーが法人税上損金になることを認めない事例がある。理由は以下となる。
<関連者が技術移転者である場合>
通常、技術移転者は親会社であることが多い。親会社は、ベトナムの子会社に生産を依頼し、その後、収益を得るために商品を販売する当事者である。従って、親会社が子会社に生産を許可・依頼した製品に対して、親会社は技術のロイヤリティフィーを請求することは妥当ではない。例えば、これが子会社ではなく、別の独立会社に依頼すれば、独立会社は契約に基づいて生産するため、依頼した顧客にロイヤリティは支払わない。さらに、親会社が生産のためにベトナム側に販売する際の原材料の価格を計算する際にロイヤリティが考慮された可能性がある。
従って、この場合の技術移転のロイヤリティフィーは、サービスの「支払い意思」を満たしておらず、子会社が受けている利益を証明するものではない。新たに子会社が生産を開始する場合、固定資産の減価償却費など初期費用が多く発生するため、親会社は技術移転契約を結び、子会社との売上を生み出してロイヤリティフィーを徴収することができる。この売上は子会社で発生した費用と相殺されるため、子会社は税金を支払う必要はなく、親会社は利益を得ることができる。
上記を踏まえ、税務局は、技術移転契約およびロイヤリティフィーの徴収は、親会社への利益移転のみを目的としていることを疑う可能性が高い点に注意が必要である。
<その他の関連者の場合>
特別な技術的ノウハウに基づいて製造された製品は、独立会社と取引する場合には、ベトナム企業の交渉力を強化し、追加の経済的利益をもたらすが、関連会社に販売することによる経済的利点・利益は得られない。発注書に基づいた製造・他の関連会社への販売も、グループ内の戦略的指示に従っており、ベトナム企業に製品を発注する関連会社も、製品をエンドユーザーに販売する際、親会社にロイヤリティを支払わなければならない可能性がある。従って、親会社は同じ製品に対してロイヤリティフィーを2回請求したことになる。サービスは納税者への付加価値が確定されず、納税者が企業の一員であることの結果として受け取る利益であるため、このロイヤリティフィーは法人税上、損金不算入とみなされる。
この点については実務上さまざまな見解があるため、技術移転契約において、企業は上記のリスクを検討すべきである。保守的に、関連者に販売する売上にはロイヤリティフィーを請求せず、独立会社に販売する売上にのみ請求することを推奨する。ただし、企業の価格政策がグループ内の方針に従う必要があって変更できない場合、リスクを最小限に抑えるために、関連会社に販売する場合の利益率が独立会社に販売する場合と同じであることを証明する根拠(計算表・データ)を用意するべきである。
おわりに
技術移転は多額の取引であり、多くの場合、何年にもわたって続くため、企業の納税義務に大きな影響を与える。従って、企業は法人税上損金不算入とみなされ、税金不足や多額の罰金につながるリスクを回避するために、法令を順守し、ライセンスを完全に登録する必要がある。
参考
・技術移転法07/2017/QH14
・政令76/2018/ND-CP
・政令132/2020/ND-CP
・通達96/2015/TT-BTC
・通達103/2014/TT-BTC
M000112-183
(2024年6月25日作成)