労働災害と労働災害発生時の雇用者の義務
2023/02/21
- Le Que Ngan
はじめに
労働災害は誰もが望まないことであるが、業務中いつでも発生する可能性がある。労働災害は、労働者の健康を害し、労働能力を喪失させ、さらには労働者の生命を奪う可能性がある。そのため雇用者は、労働災害の防止、被害者への補償、治療費や休業中の賃金等の支払いといった責任を負う必要があると法律に規定されている。本稿では、労働災害に関するいくつかの留意点と、労働災害発生時における雇用者の義務について説明する。
1.労働災害とは
労働災害とは、労働者が業務・任務を遂行する中で発生する災害であり、労働者の人体や生命機能に損害を与え、最悪の場合、死亡させる災害である。
労働災害の特徴は、次のように理解されている。
―労働者の勤務時間中および職場で発生した災害、または労働者が雇用者から割り当てられた作業や業務に関連する災害
2.労働災害・職業病基金保険制度の対象となる労働災害
労働者は、労働災害のすべてのケースにおいて、労働災害・職業病基金保険から保険金を享受できるわけではない。労働災害・職業病基金保険に加入する労働者は、次のすべての条件を満たす場合に、保険金を享受できる。
条件 1
次に掲げる各号のいずれかに該当する事故に遭った場合。
(1)労働法または事業所の規程により、勤務時間中に行うことが許容されている行為(休憩、シフト間の食事、支給食品の飲食、生理中の衛生管理、授乳、お手洗い等)の際に、職場で事故に遭った場合
この場合の「職場」とは、労働者が雇用者と合意した場所または雇用者によって割り当てられた実際に働く場所のことを指しており、仕事に関連する場所や空間も含まれることになる 3。このように「職場」は、「オフィス・本社」以外の他の場所も含まれると理解されている。
実例として、最近の新型コロナウイルスの流行により、在宅勤務の労働形態が多くの企業で採用されている。その際、雇用者と労働者の間で「労働者の自宅で」働くという取り決めがある。この場合、「労働者の自宅」は「職場」とみなされる。したがって、労働者が不幸にも勤務時間中に自宅で事故(会社から与えられた電子機器の発火や爆発、勤務中に自宅でトイレに行ったときの転倒など)を起こした場合でも、労働災害とみなされることになる。
(2)職場以外あるいは勤務時間以外であるが、雇用者が要求した業務または雇用者によって書面で労働者の管理を委託された者が要求した業務に従事したことにより、事故に遭った場合
(3)自宅と職場との往復通勤中に事故に遭った場合(ただし、妥当な時間およびルートで事故に遭った場合に限る)
現在、「妥当な時間およびルート」について詳細に規定している文書や規則は存在しない。ただし、政令152/2006/ND-CP(失効文書)の考え方に基づけば、以下のように理解することができる。
・「妥当な時間」とは、勤務時間前に出勤し、勤務時間後に退勤するために必要な時間を指す
・「妥当なルート」とは、居住地または仮住居登録地と職場との往復ルートを指す
条件 2
事故に遭ったことにより労働能力が 5%以上喪失した場合。なお、労働能力喪失率の判定は、医学評価評議会による評価によって決定される。
条件 3
次に掲げる各号のいずれにも該当しない事故に遭った場合。
(1)業務・労働職務の遂行に関係しない、被害者と事故の加害者間の争いによる場合
(2)労働者が故意に自身の健康を害した場合
(3)麻薬、その他法律が規定する薬物を使用した場合
上記の条件に基づき判断した結果、労働災害に遭った労働者が労働災害・職業病基金保険制度の適用を受けることができるとなった場合、雇用者は申請書類を作成し、労働災害・職業病基金保険制度の適用を申請しなければならない。
なお、以下のようなまれなケースに関する対応方法については、通達第28/2021/TT-BLDTBXH第8条に規定されている。
・健康保険に加入していない労働者が労働災害に遭った場合、雇用者は応急処置から治療までの医療費を全額負担する。
・複数の雇用者と労働契約を同時に締結している労働者が、労働災害に遭った場合、労働災害につながる業務・作業を依頼した雇用者が、労働災害・職業病基金保険制度の適用に関する申請書類の作成や処理の責任を負う。
・複数の雇用者と労働契約を同時に締結している労働者が、ある雇用者の職場から他の雇用者の職場へ、妥当な時間とルートにおいて移動する途中に事故に遭った場合(労働災害と判断された事故)、事故に遭う前に労働者が出勤していた職場における雇用者が、労働災害・職業病基金保険制度の適用に関する申請書類の作成や処理の責任を負う。
3.雇用者の労働災害に関する義務
(1)労働災害を防止する義務
労働者は、安全で衛生的な労働環境のもとで働く権利を有する。したがって、雇用者は労働災害を防止するための措置を講じ、労働者が安心して働けるための安全な環境を整備する義務がある。また、労働環境の安全性は人材確保のための要素の一つであり、企業は労働災害防止のための内部統制を適切に構築し、より注意を払う必要がある。
2015年労働安全衛生法に基づく基本的な予防義務として、次のような事項が挙げられる。
・職場の設備、機械、備品などについて、労働安全衛生の技術基準にのっとって定期的に検査、使用、運転、保持、保管する
・労働者が作業を行う際の労働安全衛生の保安設備装置を整備する
・労働者に対し、労働安全を確保するための施策について宣伝、周知または訓練する
労働災害は、雇用者・労働者にとって回避されるべきものである。そのためには、雇用者が先頭に立ち、積極的に労働災害を防止またはリスクを最小化するための対策を実施しなければならない。
(2)労働災害発生時の雇用者の義務
労働災害が発生した場合、雇用者は、応急救護措置を迅速に行い、応急救護措置および治療に係る費用を立て替えるなど、労働災害による損害を最小限に抑えるために必要な処理を迅速に行う義務を負う。
さらに、2015年労働安全衛生法の規定に従い、雇用者は、労働災害に遭った労働者または労働者の家族に対し、治療費の支払い、労働者の治療による休業中の賃金、補償金や手当の支払いなど「金銭的義務」を履行する責任も負う。
労働災害が発生した場合、雇用者は労働者の過失に応じて「補償金」または「手当」を支払うことになる。 具体的には以下の表のとおりである。
金銭的義務 | 補償金(1) | 手当(2) |
労働災害の 原因 |
労働者本人に一部過失がある、または労働者の過失によらない労働災害 例:雇用者が労働者に保安設備装置を整備しなかったため、労働者が事故に遭った(労働者に過失はない場合)。 |
労働者本人の過失による労働災害 例:雇用者が保安設備を整備していたにもかかわらず、労働者が作業中に着用しなかったため、事故に遭った(完全に労働者の過失である場合)。 |
支給額 | 労働能力の喪失率に基づく。 – 5%~10%:少なくとも1.5ヶ月分の給与に相当する金額 – 11%~80%:1.5ヶ月分の給与相当金額+[(実際の喪失率–10%)×0.4ヶ月分の給与相当金額] – 81%以上または死亡した場合:少なくとも30ヶ月分の給与に相当する金額 |
最低支給額は補償金(1)の40%となる。 |
出所:各種資料を基に筆者作成
おわりに
実際、特に製造業の企業では労働災害の発生は少なくない。そのため、労働災害を規定する法的規制や企業の義務を理解することが必要である。労働災害は、労働者や雇用者に悪影響を及ぼすため、生産・事業活動において「転ばぬ先のつえ」の考え方を肝に銘じ、労働災害の予防対策に真摯に取り組んでいただければ幸いである。
参考文献
-2015年労働安全衛生法
-2019年労働法
-政令第145/2020/ND-CP 通達第28/2021/TT-BLDTBXH