財務諸表データの誤りの訂正方法
2024/05/23
- Le Ngoc Quoc Bao
はじめに
財務諸表は、一定期間の企業の資産、資本、経営成績、財務状況に関する情報を総合したレポートであり、企業、投資家、債権者が事業運営および財務状況を評価し、適切な事業および投資の意思決定を行う際の重要な情報源の一つである。財務諸表の作成にあたっては、社長、投資家、債権者などのステークホルダーに企業の財務状況を適切に伝えるため、誠実性および客観性の原則を確保する必要がある。しかし実務上、財務諸表を作成および開示する過程で企業が会計データを誤り、会社の状況が正しく反映されていないことによって、投資家、債権者による投資と経営上の意思決定に悪影響をもたらす可能性がある。
財務諸表の会計データに誤りが見つかった場合、どのように対処するべきか。本稿では、ベトナムの会計基準に基づいた、会計データの誤りを訂正する方法を説明する。
1.財務諸表データの誤りの分類
ベトナム会計基準第29号(Vietnam Accounting Standards:VAS 29)では、会計上の誤りは、計算ミス、会計方針の誤適用、記帳漏れ、誤解、および不正によって発生すると規定されている。会計上の誤りは、誤りの程度に応じ、重要な誤りと重要ではない誤りに区分される。通常、誤りの重要性は、定量的(金額の大小)または定性的(誤りの性質)によって考慮される。そのため、重要であるかどうかの判断は、その項目の性質や規模、および企業規模によって異なる。例えば、1億ドンの固定資産の計上漏れは、大規模企業にとってはそこまで重要ではないかもしれないが、小規模企業にとっては重要な誤りになりうる。
重要な誤りと重要ではない誤りの違いは以下の通り。
重要な誤り | 重要ではない誤り |
・故意もしくは故意ではない誤り ・誤りにより、財務諸表が著しく歪められる場合 ・財務情報を利用する人々の意思決定に影響を与えられる場合 |
・故意ではない誤り ・軽微な誤りで、財務諸表を著しく歪めない場合 ・財務情報を利用する人々の意思決定に影響を与えない場合 |
出所:各種資料を基に執筆者作成
2.財務諸表データの誤りの調整方法
2015年会計法では、会計帳簿の誤りを訂正するには、次の3つの方法があると規定されている。
(1)直線を引き訂正する方法 | (2)括弧により訂正する方法 | (3)調整仕訳により訂正する方法 |
該当部分に直線を引き、その上に正しい数字または文字を書いた上で、隣にチーフアカウンタントが署名を行う。 | 誤った金額を赤字の括弧で囲み、正しい金額をその下に記載の上で、その横にチーフアカウンタントが署名を行う。 | 調整伝票を作成し、差額を計上する。 |
出所:各種資料を基に執筆者作成
現在、多くの企業は、会計ソフトと経営管理システムを用いて会計帳簿の記帳や財務報告書を作成しているため、訂正の際は「(3)調整仕訳により訂正する方法」にて行うのが一般的である。
3.財務諸表データの誤りの調整
財務諸表において会計データの誤りを検出した場合、正確な財務報告を行うためにも、企業の会計担当者はその誤りの重要度を判断し、会計データを適切に訂正する必要がある。ベトナムの会計基準によれば、重要な誤りと非重要な誤りは、次のように規定される。
誤りの分類 | 訂正方法 |
1.重要でない誤りの場合 | ・誤りの影響を判定する(金額、影響が及ぶ勘定科目) ・誤りが発見された会計年度(当期)に訂正する ※前期に発生した誤りが当期に発生した誤りを問わず、訂正が必要になる |
2.重要な誤りの場合 | |
2.1 当期に発生した重要な誤り | ・誤りの影響を判定する(金額、影響が及ぶ勘定科目) ・誤りが発見された会計年度(当期)に訂正する |
2.2 前期以前に発生したもので、かつ該当の会計年度における財務諸表の発効前に検出された誤り | ・誤りの影響を判定する(金額、影響が及ぶ勘定科目) ・該当の会計年度における財務諸表の発行前に、訂正する |
2.3 前期以前に発生した誤りだが、該当の会計年度の財務諸表が八行為された後に検出された誤り | ・陶器までの誤りの累積影響を判定する(金額、影響が及ぶ勘定科目) ・当期の賃貸対照表における資産、債務、資本の初期残高を訂正する ・当期の損益計算書における比較情報(前期の売上や費用)を訂正する ・当期のキャッシュフロー計算書における比較情報(前期の欄の項目)を訂正する |
出所:各種資料を基に執筆者作成
おわりに
以上、ベトナムの会計基準に従った、財務諸表の会計データにおける誤りの調整方法を説明した。この規定を理解することで、企業が会計帳簿の記帳および財務諸表の作成過程で発生した誤りを適切に処理し、ベトナムの会計基準に従った適切な財務諸表の作成が可能になる。これにより、企業、投資家、債権者は、企業の正確な財務状況を把握することができ、適切なビジネスおよび財務上の意思決定に繋げることができる。
参考
・ベトナム会計基準第29号
・2015年会計法
M000112-182
(2024年5月23日作成)