Reportレポート

政令145/2020/ND-CP号による労務管理上及び労働条件に関する重要点

2021/05/13

  • Do Thi Diu

はじめに
 2020年12月14日、政府は新労働法における労務管理および労働条件に関する一部条項のガイダンスとなる政令 No.145/2020/ND-CP(2021年2月1日施行。以下「政令 145」) 公布した。政令145の発効時点以降、2012年労働法(法 10/2012/QH13)の細則を定めた各政令は失効する。本稿では、労務管理及び雇用状況報告、時間外勤務、交代制勤務、年次有給休暇、職場のセクシャルハラスメント(以下、「セクハラ」)の予防・防止、女性の労働者の規定に関する重要な点について説明する。

1.労務管理及び労働条件に関する変更点
1.1. 労務管理及び雇用状況報告
政令145では労務管理について以下の規定の変更があった。

a. 労働管理台帳
 (i) 企業は、営業開始から30日以内に、各拠点おいて労働管理台帳を作成しなければならない。
 (ii) 労働管理台帳は書面または電子的文書で作成し、政令145で規定する事項を記載しなければならない。

b. 雇用状況報告
 (i) 初期申告:政令122/2020/ND-CP号の規定に則り、企業設立の申請時に初期申告を実施する。
 (ii) 定期報告:本政令の付録所定フォーム01/PL1で申告する。

記載内容:これまでは、企業の労働者数や専門資格などのみ報告すればよかったが、政令145では労働者の個人情報の記載も必要となった。
報告期限:半期報告は毎年6月4日までに、年間報告は毎年12月4日までに提出しなければならない。これまで提出期限は5月25日(半期報告)、11月25日(年間報告)とされていた。
提出先:企業の拠点が所在する市・省の労働局および区の社会保険局の2カ所に対し提出する。これまでは企業の拠点が所在する市・省の労働局、または区の労働部門に対し提出することとされていた。
提出方法:書面またはオンラインのいずれかの方法で提出できるとされるが、各当局の案内に従う形になる。

1.2.時間外勤務
 時間外勤務について、政令145は以下の新しい規定を追加した。

a. 時間外勤務について労働者の同意
 2019年労働法(法45/2019/QH14, 以下「新労働法」)第108条の特別な場合の時間外勤務を除き、雇用者は時間外勤務の時間、場所、業務について労働者の同意を得なければならない(現行法では、詳細な規定は定められていない)。
労働者の同意を取得するために合意書を作成する場合、その合意書は政令145のフォームNo.01/PLIV、付録IVに基づく。

b.年間200時間以上300時間以下の時間外勤務をする場合の規定の追加
 新労働法第107条3項 a、b、c、d 点に規定する場合に加えて、政令145では以下の場合にも200時間以上300時間未満の時間外勤務が認められる旨規定された。
• 作業は緊急であり、国家機関の公務活動に直接関連する客観的要因のために遅らせることはできない(法令の規定に従った国防、国家安寧の任務を行うための動員令を実施する場合や自然災害、火災、危険な疫病、大惨事の予防、克服において、人の生命、 機関、組織、個人の財産を保護するための業務を実施する場合など新労働法第108条に規定されている場合を除く)。
• 公共サービス、医療サービス、教育および職業訓練サービスの提供。
• 通常の労働時間が週44時間を超えない企業における生産・運営活動に直接関連する業務。
 旧労働法の規定と比較すると、上記の場合の追加により、企業の200時間以上年間300時間未満の時間外勤務を申請することは容易になると考えられる。例えば上記3番目の規定により、企業は就業規則に通常の労働時間が週44時間を超えないように記載すれば、労働検査が入っても説明書やその他の証明書類を労働機関に提出する必要がない。

c. 年間200時間以上300時間以下の時間外勤務についての通知
 年間200時間以上300時間以下の時間外勤務を行う場合、雇用者は、政令145のフォームNo.02/PLIV、付録IVに基づいて、次の場所での市・省の労働局に書面で通知する必要がある。
• 雇用者が年間200時間以上から300時間までの時間外勤務を行う場所。
• 本社が所在する場所(本社が、雇用者が年間200時間以上から300時間までの時間外勤務を行う場所と異なる場合)。
 通知は、年間200時間以上300時間以下の時間外勤務を行った日から遅くとも15日以内に実施しなければならない。

1.3.交代制勤務
 政令145においては以下の通り連続交代勤務という概念が追加された。詳細は以下の通り。
a. シフト
 シフトとは、労働者が仕事を始めてから、仕事を終えて他者に引き継ぐまでの期間であり、労働時間や休憩時間を含む。

b. 交代勤務
 交代勤務とは、1日(連続24時間)の期間における同一作業について、少なくとも2人または2つグループを配置し、交代で勤務させることと定義された。
そのうえで、連続交代勤務とは、以下の2つの条件を満たした交代勤務のことである。
(i)それぞれのシフトの時間が6時間以上であること。
(ii)それぞれの連続交代の間隔が45分を超えないこと 。
 連続交代勤務をする場合、労働者の休憩時間(日中の作業の場合は少なくとも30分、夜間の作業の場合は少なくとも45分)が勤務時間として計算される。旧労働法及び関連する案内文書の規定によれば、連続交代の概念が明確にされていないため、どんな場合に休憩時間が勤務時間として計算されるかまだ不明であった。政令145はこの問題を解決できたと言える。
 また、政令145は、夜間に働く際の45分間の休憩の条件を次の通り規定している。
• 労働者は1日6時間以上勤務する。
• そのうち、勤務時間が夜間の労働時間(22:00~翌日6:00)の枠内で3時間以上を占める。
 上記の夜間の休憩であっても、連続交代勤務の条件を満たさない場合は、休憩時間は勤務時間として計算されないので注意が必要である。
なお、政令145によると、休憩時間を交代開始時点または交代完了時点に設定してはいけない。

1.4. 年次有給休暇
 政令145は、旧労働法では不明確であった勤務期間1ヶ月未満の場合の年次有給休暇日数の計算に関する規則を追加した。政令145によると、勤務した日および有給休暇日の合算日数が所定勤務日数の50%以上を占める月は、年次有給休暇日数の算出上1ヶ月として計算される。
 また、有給休暇の買取について、政令145の規定ではなく新労働法上の重要な変更点となるが、退職時を除き、会社は有給休暇を買取する義務がなくなったと解釈されている。すなわち、会社は買取するか否かを選択できるようになったと考えられる。各企業としては、人件費削減のために買取を止める会社もいれば、有給休暇取得率が上がり業務に影響が出ることを懸念し引き続き買取する会社もいると想定される。

 なお、買取をする場合には以下の留意点がある。
・就業規則に明記し、労働局へ登録する必要がある。
・労働局が有給休暇の消化を原則と考え買取を認めないなど、地方により運用が異なる可能性がある。
・雇用契約書、給与規定又は労働協約に買取を行う旨規定することで、買取金額が法人税上損金算入される可能性を高めることができる。
・買取する際の支払いについて、新労働法により「会社は、労働者の意見を参考にしたうえ、年次休暇の日程表を定める責任を有し、事前に労働者に通知しなければならない」と規定されている。そのため、会社の都合により労働者が定めた年次休暇の日程に勤務する場合は時間外労働と見なされ、労働法第98条により当日給与分に加えて当日給与分の300%を支給する必要がある。

1.5.職場のセクハラの予防・防止
 政令145では職場のセクハラにかかる規定に関する詳細も案内された。

a. 職場でのセクハラ行為
 政令145によると、職場でのセクハラの行為は以下と規定された。
• 身体的なセクハラ:性的または性的な内容を示唆する行動、身振り、身体的接触を含む
• 言語行動によるセクハラ:性的な内容または性行為を暗示する直接の言語、電話又は電子的手段を含む
• 非言語行動によるセクハラ:直接的または電子的手段で性的な内容を含む視覚情報の表示、説明又はボディランゲージを含む

b. 職場でのセクハラに関して就業規則に規定する必要がある項目
 新労働法によると、職場でのセクハラの予防・防止は就業規則に必ず記載する必要がある。政令145では、具体的に以下の内容を織り込む必要があると規定している。
• 禁止される職場でのセクハラの内容。
• 職場および業務の性質、特性を踏まえた職場でのセクハラ行為に関する詳細な規定。
• 職場でのセクハラに対する社内処分、期限、手順及び手続。これには、告発、不服申し立て、告発・不服申し立ての解決及びその他の関連する規制の責任、期限、手順及び手続を含む。
• 違反の性質と重大度に応じてセクハラ行為を行った者または虚偽の告発を行った者に対する懲戒処分の形態。
• 被害者への損害賠償及び是正措置。

 このように、政令145は、職場でのセクハラに関して就業規則に記載すべき内容について詳細に規定した。社内処分手順及び手続、懲戒処分の形態、被害者への損害賠償などの内容は、現在、法的文書で具体的に指示されていないため、会社はこれらの内容を業務の内容等に応じて任意に決定すればよい。

1.6.女性労働者に関する規定
 政令145は、女性労働者の休憩に関する次の規定を追加した。
生理期間中の休憩時間(1日30分)および12ヶ月未満の子供の養育中の休憩時間(1日60分)に関して、女性労働者が休憩を取得したくなく、その休憩時間に勤務することについて会社からの同意を得た場合は、労働契約書に基づく賃金のほか、女性労働者は休憩時間中の勤務に関しても賃金も受給できる。以上の規定により、女性労働者は法令上の休憩時間を柔軟に利用できる。

2.政令145の発効以降、失効となる各政令
政令145の発効時点以降、以下の各政令は失効する。
(a) 政令03/2014/ND-CP号
(b) 政令44/2013/ND-CP号、政令05/2015/ND-CP号、政令05/2015/ND-CP号の一部項目を改正・補足する政令148/2018/ND-CP号
(c) 政令29/2019/ND-CP号
(d) 政令149/2018/ND-CP号
(e) 政令第49号/2013/ND-CP号、同政令49/2013/ND-CP号を修正・補足する政令121/2018/ND-CP号
(f) 政令45/2013/ND-CP号
(g) 政令85/2015/ND-CP号
(h) 政令27/2014/ND-CP号
(i) 政令46/2013/ND-CP号
(j) 政令41/2013/ND-CP号

おわりに
 政令145は、労働管理及び労働条件に関する多くの重要な内容を規定している。本稿では、企業が事業を行う上で注意を払う必要のある最も重要な内容のみを要約した。将来の労働争議を回避するために参照いただければ幸いである。

参考文献
1.2019年労働法(法45/2019/QH14)
2.政令145/2020/ND-CP
3.政令122/2020/ND-CP
4.通達23/2014/TT-BLDTBXH

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