Reportレポート

ベトナムで就労する外国人労働者の労働許可証申請・免除資格等に関する改正点

2021/04/21

  • Le Thi Thuong

はじめに
 2020年12月30日に、2019年労働法の細則規定として政令152/2020/ND-CP(以下「政令152号」)が公布された。本政令では、ベトナムで就労する外国人労働者の労働許可証取得、免除の具体的な条件や手続きが規定されている。また本政令が2021年2月15日より 施行されたことに伴い旧労働法に基づく政令11/2016/ND-CP(「政令11号」)は失効した。本稿では、この政令152号の労働許可申請・免除条件および手続きに関する重要点について説明する。

1.労働許可証の取得
1.1. 労働許可証の取得形態
 ベトナムで就労する外国人は、その状況に応じて以下のいずれかの手続きをする必要がある。
 ①労働許可証取得
 ②労働許可証免除申請/通知

 労働許可証免除の対象者以外は、ベトナムで就労する前に労働許可証を申請する必要がある。労働許可証の取得形態には複数の種類あるが、よく適用されるのは以下の3種類である。
 ① 企業内異動
 ② 現地採用
 ③ 業務委託契約に基づく派遣

 上記のうち、「①企業内異動」の形態として労働許可証を申請するためには、「当該外国人がベトナムで就労する前に、親会社で12ヶ月以上勤務していた」という条件を満たさなければならない。
なお、政令152号では海外の会社から、その会社の「商業拠点」へ出向する場合のみが「企業内異動」に該当すると規定されてており、かつ「商業拠点」とは、海外の会社のベトナム現地法人(100%出資の子会社若しくは合弁会社)、駐在員事務所/支店および海外請負業者のプロジェクトオフィスであるとされている。
そのため、例えば日本の会社がシンガポール法人を設立し、そのシンガポール法人が 100%出資してベトナム法人を設立するような場合、その日本本社からベトナム法人に出向する外国人は「企業内異動」の形態では労働許可証を取得できず、現地採用などの形態で手続きを行う必要がある。

1.2. 労働許可証取得が可能な職位及びその条件
労働許可証取得が可能な職位の種類は以下の通りである。

職位 対象者/条件
(i) 管理者 ベトナム企業法第4条24項に規定される企業の管理者又は組織の代表あるいは副代表である外国人。
(ii) 常務(マネージングディレクター) ベトナム法人に所属するユニット(駐在員事務所、支店など)の長である外国人。
(iii) 専門家 ①ベトナムで就労する予定の職務に適合する分野を専攻し、学士以上の学位または同等の専門教育の修了証明書を持ち、その専門分野に関する仕事に3年以上従事した経験を持つ外国人、または
②ベトナムで就労予定の職務に関する仕事に5年以上従事した経験および公認資格証明書を持つ外国人
(iv) 技術者 ①外国で1年以上の研修経験があり、かつ3年以上の実務経験がある外国人、
または
②ベトナムで就労予定の仕事に関する5年以上の経験を持つ外国人

上記以外の職位については外国人労働者を雇用することはできず、ベトナム人労働者を雇用しなければならないと解されている。
さらに、それぞれの職位の対象者/条件については実務上次のような解釈・運用がされている。

(i) 管理者:上記表の通り、ベトナム企業法第4条24項に規定される企業の管理者又は組織の代表あるいは副代表のポジションを有する者のみが管理者とされる。企業法第4条24項に規定されている企業の管理者は以下の通りである。
・会社の会長/社員総会会長/社員総会メンバー
・取締役会会長、取締役
・社長
・会社の定款に定められているその他のポジション
 したがって、例えば財務部長や人事部長などのポジションは、会社の定款の定めがなければ「管理者」とみなされず、専門家の職位として労働許可証を申請することとなる。
また、政令152号には規定されていないが、実務上は管理者として労働許可証申請する際に「管理経験証明書」の提出を求められることが多い。

(ii) 常務(マネージングディレクター):ベトナム法人(外資・内資を問わない)の駐在員事務所所長や支店長などは常務職位として労働許可証を申請する。
 管理者と同様、政令152号に規定されてはいないが実務上は労働許可証申請時に「管理経験証明書」の提出が求められることが多い。

(iii) 専門家:専門家の職位で就労する外国人労働者が最も多いとみられる。旧法に基づく政令11号が有効であった時期には、「学士以上の学位を持ち、かつその学位に関する3年以上の実務経験を持つ、または海外機関、組織、企業が専門家であると認定した証明書を有する」のであれば労働許可証を取得できた。そのため海外親会社等から発行される「専門家証明書」を利用し、労働許可証を取得するケースが一般的であった。しかし政令152号により、海外親会社等が発行する専門家資格証明書は受付けられなくなり、「学士以上の学位と3年以上の実務経験」または「公認資格証明書と5年以上の実務経験」が求められている。また、大学の専攻及び実務経験はベトナムでの仕事に関係がなければならないと解釈されている。旧法と比較して、政令152号では専門家としてベトナムで就労する外国人の条件が厳格化されており、大学を卒業していない、または大学卒業であっても専攻がベトナムでの仕事に関係ないケースに対しては、労働許可証取得の難易度が非常に高くなっているため、管轄の労働管理機関に事前に確認するべきである。

(iv) 技術者:上記表の通り、「1年以上の研修経験と3年以上の実務経験」または「5年以上の実務経験」があれば労働許可証を取得できる。そのうち「5年以上の実務経験」という選択は新しく追加された規定であり、政令11号では存在しなかった。
 技術者の対象者は法律では定義されていないが、一般的に工場・建築現場・IT開発などにおける技術者・エンジニアと呼ばれる職務に適用されると解される。したがって、ベトナムの労働管理機関は、製造業者や建設業者、IT企業などでエンジニアや開発者として就労する者についてのみ「技術者」としての労働許可証発行を認めるものと推察される。

2.労働許可証の免除
 労働許可証取得が免除される対象は2019年労働法第154条及び政令152号第7条に定められている。そのうち、よく適用される対象は以下の通りである。
a. 払込資本金が30億ドン以上のベトナム有限責任会社の出資者
b. 30億ベトナムドン以上の価値を持つ株式会社の取締役会の会長または構成員
c. WTO とベトナムの間で段階的市場開放が合意された11のサービス分野における企業内異動の管理者・常務・専門家・技術者
d. 1回のベトナム滞在期間が30日以下かつ入国回数が年3回までの出張者
e. ベトナム人と結婚し、ベトナムに在留する外国人

 上記のうち、
・c 項に該当する外国人は労働許可証免除申請の手続きを行う必要がある。本手続きでは、労働許可証発行申請と同様に管理者・常務・専門家・技術者の証明資料を提出しなければならない。そのため、労働許可証免除申請の負荷は発行申請手続きと比べてそれほど減らない。
・a, b, d, e 項に該当する外国人に対しては、労働許可証免除申請を行うのではなく、労働管理機関に報告するべきことが規定された。しかし政令152号では報告手続きについて具体的に案内されていないため、企業は管轄の当局に確認する必要がある。

3.労働許可証の延長
 政令152号では、労働許可証を1回のみ(最長2年間)延長することができると規定されたが、条文の規定が必ずしも明確ではないため、1回延長した後、引き続きその外国人が就労し続ける場合には、新規に労働許可証取得申請を行えばよいという解釈と、一人物は最大2回しか労働許可証申請ができず最長4年間しかベトナムで働けないという解釈が成り立ち得る。ホーチミン市では前者の解釈が適用されているが、まだ運用が確定していない状況のため、企業は管轄の労働管理機関に確認しておくべきである。労働許可の延長手続き自体は政令11号と比較して大きな変更はみられない。

4.労働許可証の返還・回収の手続き
 期間満了、労働契約の終了、労働契約の内容が発行された労働許可証の内容と一致していないなどの理由で労働許可証が失効した場合には、労働許可証が失効した日から15日以内に、企業は管轄の労働管理機関に対し労働許可証返却手続きを実施し、失効理由などを記載した書類と労働許可証の原本を当局に提出する必要がある。政令11号でもこのような規定は存在していたが、必ずしも規定どおりには運用されていなかった。しかし政令152号では新たに、労働許可証の返却時に当局から「労働許可証回収の確認書」が発行される旨が規定されため、今後は厳格に運用されることが予測される。

おわりに
 本稿では、新たに制定された政令152号と旧法令規定を比較検討するとともに、労働管理機関との口頭確認やこれまでの実務経験を踏まえ、ベトナムで就労する外国人労働者の労働許可証に関する規定の重要な改正点についてまとめた。現時点ではまだ、外国人労働者関連の規定がすべて整ったとは言えない状況であり、今後も順次、手続き変更や新規定などの案内が公示されることが予測される。そのため労働許可証を申請するにあたっては、労働管理機関とよく事前確認をおこなう必要がある。

参考文献
1.2019年労働法(法45/2019/QH14)
2.政令152/2020/ND-CP
3.政令11/2016/ND-CP
4.政令45/2013/ND-CP

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