ベトナムの労働組合の性質や法規定について
2021/04/09
- 米国公認会計士
- 逆井 将也
はじめに
労働組合はベトナムの労務において重要な存在である一方、その性質や規定に関して間違った理解がされることも少なくない。本稿では企業内労働組合の性質や法規定について説明する。
1.企業内労働組合の活動内容・役割
労働組合は労働者の代理人として労働者の権利及び利益を保護する責任を負う。労働組合の設立は強制ではない、企業において労働者5名以上の希望があれば、設立できる。労働紛争・ストライキが発生する可能性が高い企業や、労働者が多い企業(製造業)で設立されることが多い。
労働組合は普通のメンバーと執行委員会で構成されている。外国人、社長、法定代表者等は労働組合のメンバーになることができない。労働組合は独立した組織であり、専用の会計担当者を有し、独自の銀行口座、組合員、定款、会計管理システムがある。
企業は労働組合の活動を制限してはいけない。両者が安定的に活動するため、協力同意書を締結していることが一般的である。通常、同意書にはそれぞれの権利・義務や両者が協力する活動範囲について規定されている。
企業内労働組合の役割は以下のような役割がある。
– 企業と対話・協力して、調和的な労使関係を構築し、労働者の生活を保護する。
– 集団労働協約、就業規則の作成の際に意見を出し、履行を監視する。
– 就業規則違反、労働紛争、ストライキの発生時に、処分について企業と協議する。
通常、就業規則の登録手続きは労働組合の意見を得た上で、労働局に提出するという流れで就業規則違反の処分会議には労働組合の執行委員会の参加・議事録への署名が必要である。
労働組合が設立されていない企業では管轄する上部労働組合が労使関係において企業内労働組合の役割を担う。
2.組合経費、組合加入費
これらの経費は混同されやすいが、負担者や金額など異なるため以下で説明する。
まず、組合経費について説明する。企業内労働組合の有無にかかわらず、企業は組合経費を支払わなければならない。この組合経費は企業負担となり、労働者の給与から控除してはいけない。毎月1回社会保険料の納付と同時に、上部労働組合に対し、外国人も含めた各労働者の社会保険料計算に使用する基準賃金額の2%分を合計した額を組合経費として納付する。企業内労働組合がない場合、企業は組合経費の100%を上部労働組合に納付し、年始に作成した使用計画に基づき、使用の都度還付の申請をする。2020年度には納付した組合経費の70%が企業又は企業内労働組合で使用できる。企業内労働組合がある場合、2020年度は企業内労働組合が組合経費の30%を上部労働組合に納付し、残りの70%を管理・使用する。この70%の比率は毎年1%増加し、2025年には上限の75%になる。組合経費の使用範囲は決定Decision1910/QD-Tldに規定され、主に労働者の見舞金、結婚・誕生日・祝日の祝い等の福利厚生に充当される。
現在、上部労働組合の管理がまだ厳格ではないため、組合経費を納付しない企業もいる。しかし、納付していない場合、その金額に加え18%~20%の延滞金(最大7500万ドン)が科されるため、法令通り納付することをお勧めする。
組合経費と違って、組合加入費は企業内労働組合がある場合労働組合の組合員のみ納付し、組合員ではない労働者は納付する必要がない。納付金額は労働者の社会保険料計算に使用する基準賃金額の1%であり、政府が毎年規定する基礎賃金の10%以内でなければならない(2020年の基礎賃金は149万ドン)。納付した組合加入費の40%は上部労働組合に納付され、残りの60%は企業内労働組合にて管理・使用される。使用範囲は組合経費と同様である。
おわりに
2020年1月1日から有効となる改定労働法2019年では、労働組合の他に労働者の代表組織についても規定されており、労使関係において、労働組合と同様な役割がある。この内容については今後の詳細案内が発行された際に別のレポートにて報告させていただく。
参考文献
・2020年1月1日付の労働法 45/2019/QH14 号
・2020年4月15日付の政令 28/2020/ND-CP 号
・2014年1月14日付の政令 191/2013/ND-CP 号
・2017年1月1日付の決定 1910/QD-TLD 号
・2017年1月1日付の決定 1908/QD-TLD 号