持分割合に応じて投資家が有する権限について
2023/02/24
- 米国公認会計士
- 逆井 将也
はじめに
ベトナムで法人設立・買収・合併などを行う際、投資家が特に関心を持つべき事項として出資比率に応じた投資家の決定権の有無と、少数株主利益についての問題がある。本レポートでは、二人以上社員有限責任会社(以下、「二人以上有限会社」という)の持分割合と株式会社における株式所有割合(以下、総称して「出資比率」という)に関し、投資家の影響力が変動する分水嶺となる比率について整理する。
1.社員総会・株主総会の開催に必要な出資比率(定足数)
二人以上有限会社では社員総会を、株式会社では株主総会を開催する際には、出席する社員・株主が一定の出資比率を保有している必要がある。企業法では以下のように規定されている。
第1回の会議 | 第2回の会議(*) | 第3回の会議(*) | |
二人以上有限会社 | 出席社員が資本金の65%以上を所有する | 出席社員が資本金の50%以上を所有する | 出資比率の条件なし |
株式会社 | 出席株主が総議決権数の50%以上を占める | 出席株主が総議決権数の33%以上を占める | 出資比率の条件なし |
(*) 備考:第1回社員総会・株主総会において出席社員の出資比率が 65%に満たず開催できなかった場合で、かつ会社定款に別段の定めがない場合に、第2回社員総会・株主総会が企業法に基づき招集される。さらに、第2回社員総会・株主総会についても出席社員の出資比率条件を満たせなかった場合、企業法に基づき第3回の招集を行うことができる。
2.社員総会・株主総会の決議・決定の採択に必要な出資比率
企業法においては、決議・決定事項の重要度に応じて以下のように採択に必要となる出資比率の条件が定められている。
ただし会社定款において、法令に定められた以上の厳格な採択条件を定めることができる。
法人形態 | 行使形態 | 採択に必要出資率 | 決議・決定事項 |
二人以上有限会社 | (1)総会の場での議決権行使 | (1.1.)会合に出席するすべての社員の持ち分総額の65%以上を所有する各社員が賛成 | a)会社の発展の方向性の決定 b)社員総会の会長の選任、任免、罷免 c)社員または総社長の任命、任免、罷免 d)年次財政報告書の採択 |
(1.2.)会合に出席するすべての社員の持ち分総額の75%以上を所有する各社員が賛成 | a)直近の財政報告書中に記載された財産総額の50%以上の価額の財産の売却 b)会社定款の内容修正、補充 c)会社の再編、解散 |
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(2)書面による意見表明 | 資本金の65%以上を所有する社員が賛成 | 総会の場での議決権行使が要求されている事項(上記(1.1.)および (1.2.) b、 cの内容)を除く、法令及び定款に規定された事項 | |
株式会社 | (3)総会の場での議決権行使 | (3.1.)会合に出席した株主全員の議決表総数の50%以上を代表する株主が賛成 | 下記(3.2.)及び (3.3.)に記載されたもの以外の事項 (例) a)会社の発展の方向性についての採択 b)株式の種類ごとの毎年の配当額決定 c)取締役及び監査役会の構成員の選任、免任、罷免 d)会社の定款の修正、補充の決定 e)年次財政報告書の採択 f)各種発行済み株式総数の10%を超える買取りの決定 |
(3.2.) 会合に出席した株主全員の議決票総数の65%以上を代表する株主が賛成 | a)株式の種類及び種類ごとの株式総数 b)経営分野、業種及び領域の変更 c)会社の管理組織機構の変更 d)会社の直近の財政報告書中に記載された財産の総額の35%以上の価額の財産の投資又は財産の売却の計画。ただし定款が異なる割合又は価額を規定する場合を除く e)会社の再編、解散 f)会社の定款が規定するその他の各事項 |
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(3.3.)会合に出席した同種の優先株主の保有するその優先株式総数の75%以上が賛成 | 優先株式を所有する株主に不利となる内容変更 | ||
(4)書面による意見表明 | 議決権を有する株主全ての議決票総数の 50%を超えて保有する株主が賛成 | 総会の場での議決権行使が要求されている事項(上記(3.1.)a、c、e及び(3.2)a、d、eの内容)を除く、法令と定款に規定された事項 | |
同種の優先株主が保有するその優先株式総数の 75%以上が賛成 | 優先株式を所有する株主に不利となる内容変更 |
上記の率以外、会社の定款が異なる規定を有する場合を除き、取締役及び監査役会の構成員の選任議決は累積投票方式により行う。具体的には取締役及び監査役 会の選任に際して株主は、自己の保有する株式数と選任される取締役や監査役会の人数を乗じた数の議決権を有し、すべての議決権を1人または数人の候補者に投票する方式となる。
3.少数社員・株主の出資率と認められている権利
少数社員・株主のグループは、その出資比率に応じて以下のような権利を有する。
法人形態 | 少数者院・株主の分類 | 認められている権利 |
二人以上有限会社 | 定款資本の10%以上若しくは会社の定款に定めるそれよりも小さな他の割合を保有する社員・社員グループ
会社に一人で定款資本の90%を超えて保有する社員がある場合の残りの社員グループ |
a)社員総会の権限に属する諸事項を解決するために会合の招集を請求すること b)記録を検査、検討、調査し、各取引、会計帳簿、年次財政報告書を監視すること c)社員登録簿、社員総会の会合 の議事録、決議、決定及び会社のその他の資料を検査、検討、調査及定及び謄写すること d) 裁判所に社員総会の決議、決定の取消しを請求すること |
株式会社 | 普通株式総数の5%以上又は会社の定款の規定に従ったそれよりも小さな他の割合を保有する株主・株主グループ | a) 取締役会の議事録簿及び決議、決定、半期及び年次の財政報告書、監査役会の報告書、取締役会の承認が必要な契約、取引、会社の営業機密、経営機密に関連するものを除いたその他の資料を検討、 調査し、謄本を作成すること b) 以下の場合に株主総会の招集を請求すること (1)取締役会が株主の権利、管理者の義務に対して重大な違反を行い、又は与えられた権限を越えた決定をした (2)会社の定款の規定に従ったその他の場合 c)必要と認める場合、監査役会に対し、会社の管理運営活動に関わる具体的な事項ごとに検査を請求すること |
普通株式総数10%以上 又は会社の定款の規定に従ったそれよりも小さな他の割合を保有する株主・株主グループ | 取締役会及び監査役会への人事の推薦をすること | |
普通株式総数の少なくとも1%を保有する株主・株主グループ | 取締役、社長又は総社長に対して利益の償還又は会社もしくは第三者に対する損害賠償を求め、個人責任、連帯責任を追及するために提訴すること |
おわりに
本稿では、二人以上有限責任会社と株式会社において、出資比率や保有株式数により出資者の会社に対する決定権や請求権に差が出るポイントについてまとめた。投資家(社員・株主)は、今後の出資計画や既存の出資先の運営管理にあたってこれらの事項を確認・留意するべきである。