Reportレポート

ベトナムで親子ローンを行う際の留意点

2021/03/22

  • 中村 祐太

はじめに
 ベトナムでは資金調達に係る規制が厳しく、銀行の貸出商品のラインナップも他国に比べ限定的である。そのため日系企業は資金需要が生じた際、親会社からの借入(以下、「親子ローン」)で対応することが多い。本稿では、親子ローンを行う際に留意すべき点を整理する。

1.親子ローンの短期・中長期ごとの制度概要及び留意点
1.1. 短期・中長期ごとの借入に必要な手続き・期間
 親子ローンは親子間の取引なので、返済条件等の融通が利きやすく多くの企業で利用されている。一方で借入期間に応じて取扱いが異なっており、企業は正しい手続きを把握・実施する必要がある。

短期借入 中長期借入 留意点
借入期間 1年以内 1年超 短期借入の期日到来時は返済(海外送金)が必要であり、日本のように借り換えをすることができない。
利用口座 資本金口座又はオフショアローン専用口座 資本金口座又はオフショアローン専用口座 短期借入、中長期借入ともに資本金口座又はオフショアローン専用口座を利用して貸付、返済、利息支払を行う必要がある。
投資登録証明書(IRC)上の借入枠 対象外 対象 外資企業の中長期借入の残高は投資登録証明書(IRC)に記載された「総投資額」-「資本金」(借入枠)の範囲内でなければならない。借入金額が借入枠を上回る場合は、まず計画投資局(DPI)への借入枠の修正申請・登録が必要となる。
中央銀行登録 不要 必要 ベトナム国外から中長期借入を行う際には、契約書締結後、借入資金の送金前に中央銀行に借入登録をする必要があるためご留意いただきたい。
四半期報告 必要 必要 ベトナム国外から借入を行う際には、短期・中長期いずれの場合も借入後、借入状況を中央銀行宛てに四半期報告する必要があるためご留意いただきたい。

 中長期借入はIRC上の借入枠の対象、中央銀行登録と厳密な運用になっている。手続きの所要期間についても、短期借入は借入契約書の作成や銀行送金が主な手続であり早ければ1か月程度で借入実行することができるが、中長期借入は中央銀行登録が必要なため書類準備から2~3か月、IRC借入枠の修正申請・登録が必要な場合はさらに1~2か月かかることもある。

1.2. 親子ローンで短期借入を行う際の留意点
 手続きが簡単で所要期間も短いため、親子ローンの短期借入で資金調達する企業が多い。ただし、以下の点にはご注意いただきたい。
⚫ 期日到来時には元金の返済(海外送金)が必要であるため、資金繰りにご注意いただきたい。
⚫ 法令上明確な定義はないが、短期借入は設備投資資金に充当できないと解釈されることがある。そのため例えば短期借入の期間が1年を超えてしまい改めて中長期借入として中央銀行に登録する際に指摘される場合がある。そのため短期借入を直接設備資金の支払いに充当しないよう、ご注意いただきたい。

2.親子ローンの財務・税務面の留意点
 ベトナムで主要な資金調達手段となっている親子ローンについて、下記のような財務・税務面の留意点がある。

2.1. 財務面での親子ローンの留意点
①為替リスク
 借入時の為替レートと返済時の為替レートの差により為替差益・為替差損が生じる。
例えば日本親会社は円の取引中心、ベトナム現地法人は輸出入のためのドルの取引が中心である場合を考える。この場合、親子ローンの通貨がUSD・JPY建てどちらであっても、親会社・現地法人のいずれかに為替リスクが生じることとなる。
⚫ USD建ての親子ローンを行った場合:日本親会社に為替リスク発生。

⚫ JPY建ての親子ローンを行った場合:ベトナム現地法人に為替リスク発生。

②親会社の財務バランス悪化
 日本親会社が借入を原資に親子ローンをする場合、親会社の下記財務指標が悪化する。
⚫ 自己資本比率:自己資本(決算書の純資産部分)÷総資本
⚫ 総債務償還年数:(借入-運転資金)÷(税引後利益+減価償却費)
⚫ 有利子負債キャッシュフロー(CF)比率:借入÷(営業利益+減価償却費)

 これらの指標悪化は企業の財務格付を算出する際の計算に組み込まれていることが多い。
銀行等の審査において、日本親会社・ベトナム現地法人の財務を合算した連結ベースで審査を行う場合、親子ローンは貸借が相殺されて企業の格付けに影響しない。ただし実務上親会社単体で審査されることも多く、その場合親会社の格付けが悪化する可能性がある。また銀行などが法人ごとに融資枠を設けている場合、親子ローンによって親会社の融資枠を消化してしまうことも考えられる。

2.2. 税務面での親子ローンの留意点
①外国契約者税の発生
 外国契約者税とは、ベトナム法人が外国法人からサービスを受ける際に課税される税金であり、取引ごとに税率が異なる。親子ローンのようにベトナム国外から資金調達を行う場合も外国からのサービスとみなされ、支払利息に対して、5%の外国契約者税が課せられる。外国契約者税は利息支払いの都度納税する必要がある。

②移転価格税制上のリスク
 親子ローンの金利設定についても関連者間の取引として、市場調達金利より高い場合はベトナムの税務当局から、低い場合は日本の税務署から指摘を受けるリスクがある。

③支払利息の損金算入制限
 関連者間の取引のある企業の場合、純支払利息の損金算入金額の上限は EBITDA(営業利益+純支払利息+減価償却費)の30%となる。

おわりに
 以上みてきたように、親子ローンを行う際には、短期・中長期ごとに必要な手続きを把握したうえで、スケジュール上余裕をもって対応することを推奨する。
 また、財務・税務上の留意点については本稿を参照し、親子ローン取組時の借入通貨や金利設定の参考とされたい。
 親子ローンの財務上・税務上生じるデメリットを解決するため、クロスボーダーローンを始めとした現地調達化や増資などに取組むことも有効である場合があるため、そちらについては別レポートで改めて説明したい。

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