紙インボイスと電子インボイスのメリットやデメリットについて
2021/03/08
- Ngo Hong Nhung
はじめに
2020年10月19日、ベトナム財務省はインボイス・証憑に関する政令Decree No. 123/2020/ND-CPを発行し、電子インボイスの強制適用開始時期を2022年7月1日に延長すると発表した。従来発表していた2020年11月1日から1年半ほど延期され、その間、企業は紙のインボイスを2022年6月30日まで使用できることとなった。一方、2020年10月15日から法人設立後の行政手続きが簡素化され、新規設立企業の税務局に対するインボイス使用登録が不要となったが、企業登録証明書(通称「ERC」)を申請する際に導入予定のインボイスの形式を選択し、ERC申請書に記入する必要がある。計画投資局に登録された企業情報は、税務局を含む各当局に共有される。本稿では、紙インボイスと電子インボイスの導入を検討する際の参考として、それぞれのメリット・デメリットについてまとめる。
1.インボイスの形式
インボイス形式は大きく分けると、紙インボイスと電子インボイスがある。
1.1. 紙インボイス
紙インボイスは、主に「自己印刷インボイス」と「注文印刷インボイス」の2つに分かれる。税務局からインボイスを購入しなければならない場合があるが、特別なケースのため本稿では割愛する。
▪ 自己印刷インボイス:企業が印刷設備・POS機器等を利用して自ら印刷作成する。スーパーマーケット等、日々のインボイスの発行枚数が多い企業で採用されている。
▪ 注文印刷インボイス:印刷業者から購入したインボイスのフォームに、自社で手書きまたは専用のプリンターにより内容を記入し発行する。こちらの形式の方が広く一般の企業に採用されている。
1.2. 電子インボイス
電子インボイスは、電子機器で電子データの形式(xml形式)で作成発行され、電子メールなどを通じで送付・受取が可能であり、また電子データのまま保管・管理ができる。必要に応じてプリントアウトも可能である。
2.紙インボイスと電子インボイスのメリット・デメリット
電子インボイスの強制適用開始は延長されたが、ベトナム政府は各方面に対し電子インボイスの早期使用開始を奨励している。政府の視点からは電子インボイスの使用が徹底された場合、インボイスの情報が随時税務局へ集約され、企業の日々の売上、経費等の財務情報を迅速に把握できるため、従来に比べてインボイス情報をもとに、異常取引、誤謬、違反を迅速かつ容易に探知できると期待されている。また、税務調査の際に、インボイスの確認作業の時間と労力が省かれることも期待されている。
以下において、日々インボイスを発行(売手)し、受領(買手)する各企業の視点から見たメリットとデメリットをまとめる。
電子インボイス | 紙インボイス | |
データ・原本の安全性と正確性 | ①インボイスの紛失、焼失、毀損のリスクを抑えられる。
②電子インボイスには電子署名・電子認証ができ、xml形式のファイルでエンコードされるため、インボイスの内容の改ざんリスクが低い。買手にとって偽造インボイスを受けとるリスクを逓減できる。 ③インボイスを受取る側(買手)にとって、インボイス紛失による損金不算入や仕入れVATの控除否定等の問題が減る。 |
①紙インボイスの場合は、原本の紛失、焼失、毀損のリスクが常にある。インボイスを紛失、焼失、毀損した場合、4百万ドンから10百万ドンの罰金が科される。
②改ざんリスクがあり、誤記や、判読が難しい場合もある。 ③インボイスの紛失による損金不算入や仕入れVATの控除否定等のリスクが高い。 |
費用 | ①売手側の、インボイス発行・送付時の印刷費、封筒代、郵送費等を削減できる。
②インボイスの発行担当者の事務作業を減らし、月次の決算時や税務申告時などの残業代等を逓減できる。 ③インボイスは 10 年間保管する必要がある。電子インボイスであれば電子機器上で保管できるため、倉庫保管料等を削減できる。 ④データの安全性1のインボイス紛失・消失・棄損違反リスクが抑えられることにより、コンプライアンスにかかる費用も削減できる。 ⑤プロバイダ―や選択するプランによって毎年100万ドンから2,000万ドン程度の導入費用がかかる。 |
①記入・打込み、書面発行、送付、管理のためのコストがかかる(人件費、印刷費、郵送費、保管費用等)。
②印刷業者・印刷注文量・インボイスのデザイン・配色等によって平均で15万~20万ドン/50枚程度の印刷費がかかる。手書きではなく印字式の場合、専用の印字機が必要である。 |
便利性 | ①作成時に書き間違いがあっても、容易に修正できる。
②売手が電子インボイスを発行した時に、電子データをEメールで即時に買手へ送付できるため、取引のスピードが上がり、債権回収や決算の早期化にも資する。 ③過去のインボイスデータを容易に検索し、抽出、印刷できる。 ④インボイスは番号及び作成日に基づき連続的に作成される。電子インボイスの場合は自動採番されるため、既に発行されたインボイスより前の日付のインボイスを後日作成できない。 ⑤インボイスの発行日が作成時に自動入力され、インボイスを遡及発行できない場合がある。(一定期間のみ遡って発行できるシステムを提供しているベンダーもある) ⑥電子インボイスのデータを、会計ソフトや税務申告ソフトと容易に連動させられる。 |
①手書きで発行する場合、誤植の修正ができない。誤記や記入漏れがあれば新たなシートを使い最初から作成し直さなければならない。
②発行時に社内の署名捺印手続きを経てから売手へ郵送などで届けられるため、時間がかかり、月次決算にも影響を及ぼす場合がある。 ③紙面であるため、検索・管理等の手間がかかる。 ④原則として連番で作成しなければならないが、連番のルールを守る限り、日付を遡って発行できる。 |
3.電子インボイスの発行方式
電子インボイスを発行する方式として、企業は電子インボイスのソフトウェアを自社で購入してインストールをするか(以下、「オフライン方式」)、ユーザー・アカウントをプロバイダーに登録し電子インボイス専用のウェブサイトにログインしインボイスを発行するか(以下「オンライン方式」)の2つがある。オフライン方式とオンライン方式の違いは次の通りである。
オンライン方式 | オフライン方式 |
電子インボイス専用のウェブサイトにアクセスしてインボイスを発行する。インターネット環境が必要となる。 | 電子インボイス発行ソフトウェアを特定のパソコンにインストールしてインボイスを発行する。インターネット回線の安定度に依存せずにインボイスを発行することができる。 |
発行枚数の制限が設けられることが多い。例えば300枚発行できるプランであればおよそ100~300万ドンかかる。 | 通常は発行枚数の制限がない。導入費用は1,000万~2,000万ドン程度かかる。 |
インボイスの発行枚数が少ない、または予算が限られている中小企業に向いている。 | 日々のインボイス発行枚数が多い企業に向いている。 |
インターネットが繋がっていればどこからでも、どのパソコンからでもウェブサイトにアクセスし、インボイス発行作業ができる。 | ソフトウェアをインストールしたパソコンでなければ、インボイス発行作業ができない。 |
売手と買手のシステムの互換性がある場合は、電子インボイスには同時に売手と買手の両方の電子署名を受けることができる。この機能は、企業が希望すればソフトウェアへ機能を追加できる。 | インボイスの送付時に自動的に請求書も添付される機能を、アドインとして追加できる。 |
おわりに
上記のとおり、本稿では紙インボイスと電子インボイスのそれぞれのメリット・デメリットについてまとめた。本稿が、電子インボイスと紙インボイスについての理解を深め、適切なインボイス形式を選択するための検討・判断の参考となれば幸いである。
参考文献
Decree No. 123/2020/ND-CP
Decree No. 125/2020/ND-CP