Reportレポート

2019 年労働法において就業規則に関して雇用者が注意すべき重要な変更点

2021/02/01

  • TRAN THI THU UYEN

はじめに
 就業規則は雇用者が発行する文書であり、労働関係で遵守しなければならない規則を明記しており、労働管理と懲戒処分の基礎となっている。2019 年労働法(以下、「新労働法」)において、就業規則には多くの重要な変更点がある。
本稿では新労働法において、雇用者が注意すべき就業規則に関する変更点を説明したい。

1.就業規則に含まれるべき主な内容
新労働法の第118条第2項によると、就業規則には以下の項目を含める必要がある。
– 勤務時間、休憩時間
– 職場の秩序
– 労働安全衛生
– 職場のセクシャルハラスメント(以下、「セクハラ」)の予防・防止、発生時の処分手順
– 企業の財産、営業機密、技術機密、知的所有権の保護
– 労働契約と異なる業務に一時的に労働者を異動させる場合の規定
– 労働者の労働規律違反行為及び処分の形式
– 物的責任
– 労働規律処分権限を有する者

上記のうち、新労働法で追加および変更された項目について以下で説明する。
1.1. 新労働法での追加項目
a)職場のセクハラの予防・防止、発生時の処分手順
新労働法では、就業規則で当該項目を規定する必要があると定められた。セクハラは、新労働法の第8条第3項で禁止されている行為であり、解雇の懲戒処分の対象となる。したがって、解雇の規律を適用するために、雇用者は職務内容等に合わせて職場でのセクハラについて詳述する必要がある。
一方で現時点では詳細の案内政令が発行されていないため、就業規則におけるセクハラの規定は企業ごとに任意の内容を規定し、案内政令がでたタイミングでその内容に合わせて就業規則を変更することをお勧めする。

b) 労働契約と異なる業務に一時的に労働者を異動させる場合の規定
2012年労働法(以下、「旧労働法」)では、雇用者が労働契約と異なる業務に一時的に労働者を異動させる場合の規定について、就業規則に記載する必要があると規定されていた。新労働法においてはさらに、具体的にどのような場合にどのような条件で異動させるかについても明記する必要があるとされた。またその内容は新労働法の第29条に準拠したものでなければならない。
 (参考)新労働法29条の異動に関する規定
– 異動の期間に関する規定:1年間で合計60日を超えない。1年間で合計60日を超えて労働契約と異なる業務に労働者を一時的に異動させることができるのは労働者が書面で合意した場合のみである。
– 新たな業務の賃金に関する規定:労働契約と異なる業務に異動する従業員は新たな業務に従って賃金を受ける。従来の業務と比して新たな業務の賃金が低い場合は異動後30営業日は以前の業務の賃金を維持される。新たな業務の賃金は少なくとも従来の業務の賃金の85%でなければならず、また最低賃金を下回ることはできない。
– 通知の期間に関する規定:会社は少なくとも異動の3営業日前に労働者に通知し、異動の期 限を明示し、労働者の健康、性別に合致する業務に配置をしなければならない。

c) 労働規律処分権限を有する者
旧労働法では、労働規律処分権限を有する者は雇用者側で労働契約を締結した人(つまり、労働契約書の雇用者側にサインをした者)であるとされた。新労働法では、労働規律処分権限を有する者を就業規則に定め、そのものが労働規律処分を適用するとされた。労働規律処分を適用するものは管理者以上であればよく、企業は管理者に労働規律処分権限を与え労働契約締結者が当該管理者に労働規律処分の適用を委任することができる。

1.2. 新労働法での変更点
a)労働時間、休憩及び休暇
変更の内容について、以下の表にまとめる。

内容 2012年労働法
(旧労働法)
2019年労働法
(新労働法)
労働
時間
労働時間に関しては、1日当たりまたは1週間あたりの労働時間を定める。1日当たりの労働時間を定める場合は1日当たり8時間、1週間当たりの労働時間を定める場合は1週間当たり48時間を超えてはいけない。 左記の内容に変更はないが、企業は事前にその内容を労働者に通知しなければならないとされた。
高齢労働者は労働時間を短縮したり、パートタイムの労働体制を適用したりする権利がある。

退職前の最終年に、労働者は労働時間を短縮するか、パートタイムの労働体制を適用するかを選択できる。

高齢労働者は労働時間を短縮したり、パートタイムの労働体制を適用したりすることに関して、雇用者に相談する権利があるとされた。 したがって新労働法においては、労働時間の短縮またはパートタイム労働制度の適用は、両当事者の合意によるものとなった。
妊娠7か月目以降で重労働、有害、危険な業務を行う女性の労働者はより軽い業務に移されること、あるいは毎日の労働時間の1時間が削減されるとされた。なお、削減された1時間については、給与の減額は行わない。 左記の規定は、妊娠7か月目以降~出産までの期間で適用可能であったが、新労働法においては、妊娠や子育てに悪影響を及ぼす業務の場合、出産予定日より7か月前や出産後であっても適用が可能となった。
残業 残業時間の合計は月30時間を超えず、また年200時間を超えない。

また、下記の業種に関しては、年間の残業時間上限が300時間となる。
– 輸出用の縫製品、籐製品、革製品、靴、農水産物の加工品の製造、加工。
– 電力、電信、精油、給排水事業。
– 仕事の性質上遅延できず、緊急な作業が必要である場合。

残業時間の合計は月40時間を超えず、また年200時間を超えない。

また、年間の残業時間上限が300時間となる業種の範囲が、下記の通り拡大された。
-輸出用の縫製品、籐製品、革製品、靴、
電気、電子製品、農水産物、塩業の加工品の製造、加工;
-電力、電信、精油、給排水事業;
高い専門性、技術を要求される業務において、労働市場からの労働力の確保が難しい場合。
季節性と時期、天候、自然災害、火災、電力不足、材料の不足、生産ラインの技術的な問題により、遅延できず、緊急な作業が必要となる場合。

休憩
及び
休暇
国慶節は、西暦9月2日の1日が祝日(有給休暇)となる。 国慶節は、西暦9月2日とその前後どちらかの合計2日が祝日(有給休暇)となる。
以下の場合に、有給休暇を取る
a) 結婚:3日の有給休暇
b) 実子の結婚:1日の有給休暇
c) 父母、義理の父母、配偶者および子供の死亡:3日の有給休暇
以下の場合に、雇用者に通知の上、有給休暇を取る。
a) 結婚: 3日の有給休暇
b) 実子、養子の結婚: 1日の有給休暇
c) 父母、養父母、義理の父母、配偶者、配偶者の養父母、および子供の死亡:3日の有給休暇

b)労働規律処分
上記の 1.1 c)で述べた変更に加えて、新労働法では労働規律処分において以下3点の変更がある。
1点目は、労働規律の適用対象拡大である。旧労働法においては、就業規則で規定された項目に対してのみ労働規律を適用することがでたが、新労働法117条では、就業規則だけでなく、法令の規定に基づいて労働規律処分を適用することができるとされた。
2点目は、労働規律処分を適用する際の参加者に関する変更点である。旧労働法では、企業内の労働者の組織または上級のレベルの組織が参加する必要があるとされていた。新労働法では企業内の労働者の組織または企業内の労働組合が参加する必要があるためご留意いただきたい。企業内の労働者の組織と企業内の労働組合ともに無い場合の扱いは不明のため、今後の詳細規定やガイダンスを待つ必要がある。
3点目は、無断欠勤に関する規定である。旧労働法では正当な理由なく5日間以上無断欠勤した労働者は解雇の対象となっていた。ただし、実務上解雇の労働規律処分を行う手続きは煩雑で時間がかかるという問題があった。新労働法においては、この規定が削除されたため、企業は正当な理由なく5日間無断欠勤した労働者に対し、事前の合意なく労働契約を終了することができる。

2.就業規則の公布と登録
2.1.就業規則の公布
 新労働法によると、ベトナム人労働者を1人以上雇用するすべての企業は就業規則を公布しなければならない。従来は就業規則の公布が不要であった駐在員事務所や労働者10人未満の企業も、2021年1月1日から就業規則の作成対象となる。
また旧労働法では、就業規則を公布する前に、企業は社内労働組合または直上の労働連合(労働組合を設立していない場合)の意見を聴取しなければならないと規定されていた。一方新労働法では、社内労働組合を設立していない場合、直上の労働連合への意見聴収が認められるどうかが不明確となっているので、今後の詳細規定やガイダンスの公表を持つ必要がある。

2.2.就業規則の登録
 旧労働法と同様、新労働法においても、労働者10人以上の企業は就業規則を登録する必要があり、就業規則の登録は労働に関する省レベル国家管理機関で実施しなければならないと規定している。しかし、新労働法では省レベル国家管理機関は県レベル人民委員会に属する労働に関する専門機関に委任し、就業規則の登録を実施することができるとの規定が追加された。これにより、就業規則の登録に必要な期間が短縮されることが期待される。登録期限は変更なく、就業規則公布日から10日以内である。

おわりに
 以上、新労働法における就業規則の変更点を説明した。新労働法に関連する通達や政令が今後発表される予定であり、アップデートがあった場合は以降のレポートで更新していく。

参考文献
-労働法 45/2019 / QH14
-労働法 10/2020/ QH13
-政令 148/2018 / ND-CP

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