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2021年1月1日以降の「懲戒処分」適用時の注意点

2021/01/08

  • To Ngoc Anh

はじめに
 「懲戒処分」は、法律が雇用者に与えた労働者に対する制裁手段の一つであり、労働者に対し雇用者が業務管理・運営権を行使する際に役立つ。そのため、労働法やその細則(※1)で定められた懲戒処分に関する規定に対しては、常に多くの雇用者が関心を寄せている。2019年に制定され2021年1月1日から発効する改正労働法(以下「2019年労働法」という)は、現行の2012年労働法(※2)に替わるものであるが、懲戒処分についての規定にも重要な変更が加えられている。本レポートでは、2019年労働法における懲戒処分の規定について要約・分析し、その2021年1月1日以降、懲戒処分を実施する際の注意点について説明する。

1.懲戒処分の種類
 「懲戒処分」とは、職場での秩序・運営を確保するため、労働規律違反行為をおこなった労働者に対し制裁として行われる不利益措置と理解されている。「労働規律」とは、雇用者が就業規則の中で規定し、または法令が規定した時間、技術、生産経営の指揮の遵守についての規定である(※3)。
 2019年労働法第124条の規定により、雇用者は労働規律違反行為をおこなった労働者に対し、次のいずれかの処分を適用することができる。
  i) 譴責
  ii) 6か月を超えない昇給期日の延長
  iii) 降格
  iv) 解雇
 雇用者は、労働規律違反行為をおこなった労働者に対し、上記の以外の処分形式を適用してはならない。

2.懲戒解雇が有効となる場合
 2019年労働法では、譴責、6か月を超えない昇給期間の延長および降格を適用できる違反事例が具体的に記載されていない。従って、雇用者は、これらの形式の懲戒処分を適用するべき違反行為を自社で決定できるものと解される。ただし、違反行為は具体的に特定しなければならず、単一の違反行為に対して複数の懲戒処分形式が適用されないよう留意する必要がある。
 一方、2019年労働法では解雇処分を適用できる場合が明確的に規定されている。すなわち、2019年労働法第125条に定められた次の4つの条項のいずれかに該当する場合にのみ、雇用者は労働者に対し解雇処分を適用することができる。

第 1 項:労働者が職場で、窃盗、横領、賭博、故意の傷害、麻薬を使用した場合。

第 2 項:労働者が、雇用者の営業機密、技術機密を漏洩し、知的所有権の侵害行為、雇用者の財産・利益に対し重大な損害をもたらす行為、あるいは特別に重大な損害を引き起こすおそれがある行為、または就業規則に規定される、職場におけるセクシャルハラスメントを行った場合。この場合は、以下に留意する必要がある。
• 懲戒解雇処分の証拠とするため、就業規則において「営業秘密」や「技術秘密」とは何かを具体的に定義し、研究・開発・技術・財政に関する文書等「営業秘密」や「技術秘密」が含まれる対象物も具体的にリストアップする必要があると考えられる。
• 雇用者は、知的財産権法やその施行細則等の法的文書、または就業規則の規制に基づき「知的財産権の侵害行為」を確定できると考えられる。
• 「雇用者の財産・利益に対し重大な損害をもたらす行為、あるいは特別に重大な損害を引き起こすおそれがある行為」については、雇用者は、労働者による違反行為の判定根拠として、例えば損害額をあらかじめ規定する必要があると考えられる。
• 特に2019年労働法では、労働者が「職場におけるセクシャルハラスメント」を行った場合、雇用者が労働者を懲戒解雇できるとの規定が追加された。これは、ベトナムの労働法制の枠組みを国際的な労働基準、特に「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約」(ILO第190号条約)に近づけるための新たな規定と考えられる(※4)2020年11月現在、ベトナム政府は「職場におけるセクシャルハラスメント」に関する指導文書を発行していない。しかし、女性の労働政策及び男女共同参画の確保に関する規則を指導する政令によると(※5)、「職場におけるセクシュアルハラスメント」とは、「職場における他人に対する性的な行為であって、その人が予期しておらず、あるいは受け入れていないもの」と定義されている。ここでいう「職場」とは、「労働者が、雇用者との合意に基づき実際に業務や業務に関連する社会活動、訓練や出張などを実施するあらゆる場所」と解される。したがって、雇用者は、2019年労働法に基づき現在の就業規則を修正し、職場におけるセクシャルハラスメント行為を具体化し、禁止規定を設けるなどして、2021年1月1日からの懲戒処分を適切に実施する必要がある。

第 3 項:労働者が昇給期日延期または降格処分を受けたにもかかわらず、その処分が消滅する前に再犯した場合。再犯とは、労働者が懲戒処分を受け、2019年労働法第126条の規定によりその処分が消滅する前に、懲戒処分を受けた違反行為を再び行うことをいう。懲戒処分の消滅は、昇給期日延期処分は6ヶ月、降格処分は3年である。
現状、労働法に基づき昇給期日延長や降格処分を受けた労働者の中には、懲戒処分の消滅前に労働規律違反を繰り返す者も多くいるのだが、雇用者は解雇処分を適用できていない。なぜなら、その労働者が次に行う労働規律違反は、厳密には昇給期日延期や降格処分を適用された違反行為と同一・類似のものではなく「再犯」と確定できないからである。

第 4 項:労働者が正当な理由なく無断欠勤した最初の日から30日以内に合計5日、または365日間に合計20日無断欠勤した場合。正当な理由があるとみなされるのは、天災、火災、自己または親族が疾病に罹患し、それについて医療機関の診断所がある場合、および、就業規則で定めるその他の場合などである。

3.懲戒処分の際の禁止行為
 2019 年労働法では、労働規律管理の対象となる労働者の利益を保護するため、懲戒処分の際の禁止行為として以下を挙げている。
1. 労働者の健康、名誉、生活、名誉、威信、尊厳の侵害行為
2. 懲戒処分の代用としての罰金や賃金の減額
3. 就業規則に定めがなく、労働契約で合意されていない、または労働法およびその関連法令において定められていない違反行為をした労働者に対する懲戒処分の実施。
2012年労働法と比較すると、2019年労働法では雇用者が懲戒処分を行う際の禁止行為として、労働者の健康、名誉、威信を侵害する行為が追加されている。したがって雇用者は解雇処分を行う際、実施過程において作為・不作為にかかわらず労働者の健康・名誉・威信に影響を与えることがないように注意を払う必要がある。
 2019年労働法では、雇用者による懲戒処分の適用が禁止されるのは、労働法に定められていない違反行為をした場合や、締結した労働契約書に記載されてない場合、就業規則に規定がない場合のみとされている。これは、雇用者が就業規則の中で違反行為を規定していなかったとしても、労働契約書や労働法に違反行為に関する規定があるのであれば、雇用者はその違反行為に基づき懲戒処分を適用できるという趣旨であると理解できる。また、懲戒処分の適用根拠は、就業規則、労働契約書、2019年労働法およびその政令や通達、ガイダンスなどが含まれると考えられる。これは、2012年労働法の規定とは異なっている(※6)。2012年労働法では、労働法に規定されている場合にしか懲戒処分を実施できず、また就業規則があったとしても、その違反行為が労働法上の規律違反行為とは規定されていないからである。

4.懲戒処分の実施原則
 懲戒処分を行うにあたって、雇用者は以下の原則を厳守しなければならない。(※7)。
第一に、雇用者が労働者の過失を立証する必要がある。例えば、労働者が正当な理由なく無断欠勤をし、その初日から30日以内に合計5日の無断欠勤をしたことをもって雇用者が労働者を解雇する場合、労働法では、労働者に過失があったことの証明を雇用者が行うよう要求している。労働者の過失の証明としては、タイムシートの提示や、無断欠勤について雇用者が勧告を行ったかどうか、無断欠勤の「正当な理由」を証明する書類の提出を労働者に対して求めたかどうかなどが必要になるだろう。
第二に、懲戒処分を受ける労働者が構成員である基礎レベル労働者代表組織が参加していなければならない。「基礎レベル労働者代表組織」とは、①2012年労働組合法に基づき設立された基礎レベル労働組合および②企業内の労働者の組織である(※8)。この原則によれば、労働者が基礎レベルの労働者代表組織に加入していないのであれば、懲戒処分を行う際に、基礎レベルの労働者代表組織の参加は必要ないと解釈できる。
第三に、労働者が出席し、自己弁護し、弁護士や労働者代表組織に弁護を依頼するする権利を有しており、15歳未満の者については法定代理人の参加が必要とされる。2012年労働法の規定では労働者が「他の者に弁護を依頼する権利を有する」とされていた規定を、2019年労働法では「労働者代表組織に弁護を依頼する権利を有する」と変更している。この変更は、労働者代表組織の設置と参加を奨励すると同時に、労働者代表組織の役割の拡大ー労働関係における労働者の法的・正当な権利と利益を守ることーを目的としているとみられる。
第四に、懲戒処分は議事録に記載しなければならない。
第五に、一つの労働規律違反の行為に対して、多数の懲戒処分を適用してはならない。
第六に、一人の労働者が同時に労働規律違反行為を多数行った場合には、最も重大な違反行為に対応する最も重い処分のみが適用される。
第七に、労働者が疾病・休養中の場合や、雇用者の同意を得て休暇を取得している期間、身柄を留置・拘留されている期間、2019年労働法第125条第1項および第2項に規定する違反行為について調査、検証・結論を出す権限を有する機関の結果を待っている期間、女性労働者が妊娠中、産休中、または生後12か月未満の子を養育中の期間は、懲戒処分の適用が禁止されている。
第八に、精神疾患その他の疾病に罹患して自己の認識能力や行動制御能力を喪失している間は、その労働者の労働規律違反に対する懲戒処分は行われない。懲戒処分の手順序や手続きについて、政府からの具体的な案内や指示はまだ出されていない。そのため、今後出される見込みの政令や通達を待つ必要がある。特に解雇処分を行う際には手順を厳守することをもって、将来の労働争議を回避し、適切な手続を経ずに実施した懲戒処分が法令違反として撤回されるリスクを極力抑えることが求められている。

おわりに
 2019年労働法では、雇用者が懲戒処分を実施できる場合について、より「寛大」な姿勢になったといえる。しかし懲戒手続きを進める際には、雇用者は労働法が定める原則を厳守し、適切な手順に則り、規定されたすべての手続きを踏まなければならないことに変わりはない。これらの点を留意することで、懲戒処分は、雇用者職場の秩序維持と、業績向上のために有効な手段となっていくと思われる。

注釈
※1) 第4条、2015年法規範文書発行法
※2) 2012年労働法は2021年1月1日より失効する
※3) 2019年労働法第117条
※4) 2020年10月29日付1998年の宣言と8つの基本的原則と権利に関する国際労働機関の基本条約
https://www.ilo.org/hanoi/Whatwedo/Publications/WCMS_648542/lang–vi/index.htm
※5) 2020年10月29日付女性の労働政策及び男女共同参画の確保に関する規則を指導する政令
http://duthaovanban.molisa.gov.vn/detail.aspx?tab=2&vid=736&fbclid=IwAR35obEedVcgT4xlnm8t59cs1farBjUZ5x CH2cHvZrILUJbt2N4HJ0oY_UM, 2020年10月29日付アクセスした。
※6) 2012年労働法第28条
※7) 2019年第122条
※8) 2019年労働法第3条3項

参考文献
2020年6月18日労働法 10/2012/QH13号
2019年11月20日労働法 45/2019/QH14号

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